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ロンドン自然史博物館に昆虫のタイプ標本を見に行った時のお話【1】

一昨年(2009年)の秋にロンドン自然史博物館にハネカクシのタイプ標本を見に行った時のことを今さらながら備忘録がわりに書いておこうと思う。




僕がイギリスへ行ってとにかく見たかったのはDr. M. CameonとDr. D. Sharpが日本および東南アジアから記載した膨大な量のヒメキノコハネカクシ属(Sepedophilus属)のタイプ標本。




特に僕の敬愛するDr. M. Cameron先生は1930年代にLewisの採集品を元に日本からいくつかのヒメキノコハネカクシを記載しているが、一体何を根拠にそれを新種だとして記載を行ったのか、混乱を通り越して錯乱してしまいそうな記載を行っている(Cameronの記載論文の全てがそうなわけではない)ので、修士論文を完成させるためには是が非でも実際に記載に使われた模式標本を見ないといけなかった。




研究の対象とする虫によっては模式標本が役目を終えたドラゴンボールのように世界各地に散在してしまっている分類群もあるので、イギリスにある標本さえ調べられれば目下のところ大部分の問題が片付くという僕はむしろ幸せな部類だろう。




もちろん全てがイギリスに揃っているわけではないが、実際にイギリスへ行って東アジア~東南アジア、インドにかけて記載されているSepedophilusの70%~80%くらいは標本を見ることができた(一部タイプじゃないのもあるけど)。




四回生の頃、ひょんなことから研究テーマがヒメキノコハネカクシの分類に決まり、「さて、じゃあそのSepedophilusとやらをいっちょ研究してみますか」と大学の標本室にある標本を詳しく見てみて驚いた。




さっぱりわからない。




自分の目の前にあるこの黒ゴマの粒から6本脚を突き出したような正体不明の生き物が何なのか、まったくわからない。

誇張ではなく、本当に何一つわからず途方に暮れてしまった。

標本室に収蔵してあった膨大な量の未整理標本を前にしたこの時の僕の混乱を、的確に一言で言い表すとしたら




「全部別種っちゃあ別種だし、全部同種っちゃあ同種」




ということになる。

「・・・で、でもまぁ、このCameronというおっさんの書いた原記載論文を読めば多少なりとも種の識別点がわかるだろうと」と文献を取り寄せてみたところ、さらに事態は悪化した。




余計にわからない。




イギリス人らしいこのCameronというおっさん(当時の僕はCameronがどこの誰なのかいまいちよくわかっていなかった)が書いた原記載は幸いなことに英語であったが、読めば読むほど、そこから読み取れる情報の少なさに驚愕し、絶望した。

しかし徹底的に論文を読み込んだ結果、以下に示すような重要な情報を読み取ることができた。




すなわち、このCameronが奄美大島から記載したこのS. lewisiという虫は







■「それなりに黒い」

■「体長はやや小さい」

「お腹の先端が細いっちゃあ細い」

■「触角はまあまあ長い」

■「ヨーロッパの種類と似ていると言われれば似ているかもしれない」







という極めて明確な特徴を持つということだ。







ふむふむ、なるほどなるほど・・・







生来鈍感なわたくしでもここに来てようやく気がついた。







やってもうた、と。



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全世界の貴重な昆虫標本を一手に収める誇り高き大英帝国の巨大宝物庫、ロンドン自然史博物館(大英自然史博物館)はロンドンの中心部、サウスケンジントンにある。




もともとはブルームズベリーにある本家の「大英博物館」の一部門だった自然史部門が独立してサウスケンジントンに移ってきたらしい。論文などにBMNHと書かれていたらここのことを指す。




僕が滞在中宿を取っていたのは観光の中心地で安宿のたくさん集まっているヴィクトリア駅のすぐ近くだった。ヴィクトリア駅(London Victoria station)はイギリス中を網羅する鉄道網のひとつの起点となる場所で、イギリスの象徴、ビッグベンやウェストミンスター寺院もわりと近くという新参の旅行者には便利な場所にある(歩いて20分くらい)。




ロンドンは地下鉄網が発達しているので地下鉄にさえ乗れば近郊なら大概どこへでも気軽に行けるのでとても助かった。




ただし日曜日はよく工事をしていて通行止めになることがあったので工事情報には気をつけないといけない(行きは普通に行けたのに、夕方帰ろうとしたら行きに乗った駅が閉鎖していた・・・ということが何度かあって困った。ただ地下鉄の駅は充実しているので15分も歩けば次の駅に行ける場合が多い)。




ただし地下鉄の料金は切符を普通に買うと恐ろしく高い(次の駅に行くために一駅乗っても片道\600)ので、必ずオイスターカードなどを購入し、カードで払わないと電車賃だけで結構痛い(中心部の主要な場所はほとんどがゾーン1になっているのでカードさえあればとても安くいける)

参考:ロンドンのお話1 たきぽろりん 




博物館のあるサウスケンジントンにも地下鉄で行けるようになっていて、ヴィクトリア駅からはわずか二駅とアクセスの良い場所だった。

サウスケンジントン駅周辺にもホテルはあるが、この周辺は格調高い高級住宅地らしく、ホテルの値段が高いのであまりオススメできない。最底辺のホテルでも軽く1万円とかする。




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ロンドンの地下鉄。日本の地下鉄と比べると天井がかなり低い。

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地下鉄の駅。

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サウスケンジントンの駅は地上に出ている。

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駅を出て数分で博物館。

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駅前のお花屋さんが綺麗だった。




地下鉄を降りたら大通りのある方に歩いていくと、10分もしないうちにおよそ自分の持つ「博物館」というイメージとは違った荘厳な建物が見えてくる。

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日本食研が宮殿で焼肉のタレを作っているのと同様に宮殿で昆虫の研究をしている。




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「バロック建築様式」とかそんな名前がついてそう(知らんけど)。



地下鉄サウスケンジントン駅から博物館へは大通り(エキシビション・ロード)に向かって歩いていけばいいので非常に分かりやすい。

まず迷うことはないと思うが、地下からそのまま地上に出ず、博物館の間近まで行ける地下道が通っているので、それを使うとより分かりやすいだろう。

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博物館へと続く地下道。ちゃんと案内板があるのでわかりやすい。




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地下道の出口。出ると目の前が博物館。 




博物館は見学に訪れるお客さんと観光バスで大混雑しており、正面玄関は朝から大行列になっていてタイミングが悪いと30分以上待たされる事になる。




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夕方でも次々に観光バスが現れる(ほとんどは子どもの社会科見学)。




これだけ立派な博物館にも関わらず入場料が完全無料な上に、イギリス中の学生が修学旅行や社会科見学で来るので、館内はいつ行っても大混雑している。

日本からの観光客からすると一番の観光スポットは「大英博物館」であり、こちらのロンドン自然史博物館の方は若干影が薄いような感はあるが、観光スポットとしてもこれほど素晴らしい場所は早々ないだろう。見学だけで一日余裕で楽しめる。

収蔵庫へは土日は入れないので僕は平日しか来たことはないが、それでもこの混雑具合。

いったい休みの日にはどうなってしまうのだろうか。

正面玄関が大混雑するのは入場者数が多いこともあるが、入り口でわりと細かい荷物検査をしていることも原因の一つだろう。入り口では入館者のカバンを開けて細かくチェックしている。




しかし今回僕が「スミス都へ行く」とばかりにのこのことやって来たように、博物館に研究目的で訪れた人は正面玄関ではなく、ブロンズゲートという別の入口から入るようになっている。

これは事前にメールで「入り口を間違えないように」と連絡を受けていたので、正面玄関から向かって右手にある裏口に向かう。




ブロンズゲートは荘厳な正面玄関とは違って小さく、質素な作り。一般の観光客はここからは入れないので大変すいていて、並ぶことなくすんなりと中には入れるのが嬉しい。荷物検査もない。実際には僕も一般の観光客にうぶ毛が生えたようなものだが、どうせ誰にもわからないので「日本を代表するハネカクシの研究者ですけど何か?」という尊大な態度でブロンズゲートの警備員のおっさんに研究で訪れたことを告げるとあっさりと中に入れてもらえる。翌日からは中でパスカードをもらい、それを見せると開けてもらえる。

中に入るとすぐに受け付けがあり、初日はそこから内線で収蔵庫にいる研究者を呼んでもらった。




いよいよ天下のロンドン自然史博物館の内部に入る。追い出されたらどうしよう。

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