中型のオオキノコムシEpiscapha属、および近縁のMegalodacne属。
ヒメオビオオキノコ Episcapha fortunei CROTCH
ミヤマオビオオキノコ Episcapha gorhami LEWIS
タイショウオオキノコ Episcapha morawitzi (REITTER)
キオビオオキノコ Episcapha flavofasciata lucidofasciata CHUJO
日本産Episcapha属の四種類。この類のオオキノコを同定する際に一番参考にしてはいけないのは"斑紋の色"と"斑紋の形"。これらは目立つ形質ではあるが、同じ産地の標本でも個体差が激しく、採集時と標本にしたときでは色が大きく異なることが多いためである。
なお本属の同定に関しては研究室のオオキノコムシ屋の松尾君および"松尾オオキノコ秘伝の書"(原文まま)を参考にした。撮影用の標本も合わせて提供してもらった。

ヒメオビオオキノコ Episcapha fortunei Crotch
古い図鑑や文献では学名そのままにフォルチュンオオキノコとなっている場合もある。日本産の同属他種に比べると一番の普通種。後述のミヤマオビオオキノコやタイショウオオキノコに似るが明らかに体長は小さく、複眼の大きさに対して眼間距離が短い。複眼の大きさ:眼間距離=1:1.5-2程度。少し"より目"なわけである。
いろいろな色のヒメオビオオキノコ。採集時にはこの三パターンよりも上の画像のような感じの個体が多い気がする。

ミヤマオビオオキノコ Episcapha gorhami LEWIS
古い図鑑や文献には「ゴーラムオオキノコ」の名前で載っていることも。僕が保育園の頃から愛読していた小学館の昆虫図鑑ではゴーラムオオキノコの名前で載っていた。

※小学館の昆虫図鑑より引用。
前述のヒメオビオオキノコに比べると少し珍しい。
体長はヒメオビオオキノコよりも明らかに大きく、眼間距離も複眼の大きさに比べて少し広い。複眼の大きさ:眼間距離=1:2-2.5。

標本にするとこちらの写真の個体のように色がくすむ場合が多いが、タイショウオオキノコよりは赤い斑紋がはっきりしている。
タイショウオオキノコ Episcapha morawitzi (REITTER)
前述の三種類に比べると珍品のオオキノコ。生きているときはもっと鮮やかな色をしているが、標本にするとほとんどの場合赤色がくすみ、個体によっては地色の黒と同化してほとんど紅帯が消失したようになる標本も見かける。写真の個体はそれなりに色が残っている方。ミヤマオビオオキノコと同じくらいの体長だが、眼間距離は明らかに長く、複眼の大きさ:眼間距離=1:3.5程度になる。

斑紋がこのように大きく広がる個体もある。
保育社の甲虫図鑑には「対馬では普通であるが、他ではまれ」とという但し書きがしてあるが、実際対馬に行ってみると、笑ってしまうくらい採れる。倒木という倒木にベタベタと張り付いており、あっと言う間に20頭も30頭も採集できるだろう。
タイショウオオキノコはミヤマオビオオキノコなどに比べておそらく山地よりも少し低標高地に多い傾向があり、そのため数が少なく珍品とされているのではと考えられる。最近松山近辺で得られている場所は東野・奥道後・レインボーハイランド周辺といずれも標高がそれほど高くない場所である。このような低地でよい環境が残っている(よい倒木がある)場所というのは非常に限られる。

キオビオオキノコ Episcapha flavofasciata lucidofasciata CHUJO
「対馬には黄緑色のオオキノコがいるらしい」
そんな噂を聞いたことはないだろうか。正体はこれである。生きているときはもっとなんとも言えない不気味な色をしている。何というか、およそ生物界には存在しないような感じの色。中学生の時などに教科書を無駄にカラフルにするだけで特に意味はないけれどなんとなく勉強した気にさせてくれるあの蛍光マーカーの黄緑色をしている。
日本では対馬にのみ分布するが、基亜種(Episcapha flavofasciata flavofasciata)は朝鮮半島および大陸に広く分布しているようだ。ただしこのような不思議な発色をするのは日本に分布する対馬亜種のみであり、研究室の韓さんが北朝鮮で採集してきた基亜種の方はこのような色をしておらず、普通の赤色をしていた。
しかし対馬産のものも標本にするとたいていこのような普通の赤色になってしまうため、この「黄緑色のオオキノコ」に出会うためには自分で対馬に行って採集してこなくてはならない。以前対馬に行った際、御岳の尾根沿いで立ち枯れの幹に止まっているのを一柳先生が採集していた。実際に見ると感動する。
本種は同属他種と比較すると、肩の黒色紋が完全に遊離するという点で、標本にして色が変わってしまっていても容易に同定できるだろう。

ほかに日本産Episcapha属には以下のような種があるが、これらはまだ謎が多い。
Episcapha属とMegalodachne属の両属を明確に区別するのは難しく、所属が行ったり来たりしているものもある。
Episcapha asahinai yakusimensis タイワンエグリオオキノコ (屋久島)
Episcapha asahinai amamiana タイワンエグリオオキノコ (奄美大島)
Epiccapha lewesi lewesi ヒメエグリオオキノコ
Epiccapha lewesi hayashii ハヤシヒメエグリオオキノコ(北海道)
Megalodacne immaculata クロエグリオオキノコ
特にE. lewesiに関しては謎の分布をしているので正体がよくわからない。
クロエグリオオキノコに関してはもっと謎でこれまで徳島県の眉山で採集されたHolotype(♀)のみが知られている。その後も本種を目的とした調査が積極的に行われているにもかかわらず、採集されていない。
・・・というか、コレ、カタボシエグリの黒っぽい個体と黒っぽい個体をひたすらかけ合わせて累代飼育していけば作出できそうな・・・
Episcapha属の同定であるが、前述した眼間距離に関しては正直なところ、あまり参考にならない気がしてならない。というのもかなり個体差があるからである。

違うといえば違うし、一緒と言えば一緒な気もする。
それよりも参考になるなるのは体表面に生えている微毛である(松尾君 談)。
以下、"松尾オオキノコ秘伝の書"(原文まま)を参考に毛の量の比較。キオビオオキノコに関しては前述の遊離紋で識別可能なので除外した。
また松尾君によるとタイショウオオキノコは明らかにconvex具合(背面の盛り上がり)が強いとのこと。